インドのスタートアップ企業に日本からフルリモートで参加している

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入金通知に落書きする娘

9月から、InVideoというインドのスタートアップ企業で週3日/フルリモートで働いている。 たまたま声をかけてもらったレアケースなので再現性はないと思うけど、誰かの参考になるかもしれないし、現在までの経緯や感想を書いておく。

誰?

天城孝義、京都在住のフリーランスプログラマーです。 Webサービスプログラマー、Unityプログラマーを経て、2020年4月からフリーランスとして働いています。 最近では、主にReact/Next.jsを使ったSPAの開発や、WebGLアプリ開発などの業務を行っています。

経緯

僕は趣味でもWebGLを使ったVJツールやライブラリを作っているんだけど、それが今回の仕事のきっかけになった。

7月のある日、Gmailに「君のWebGLライブラリ(REACT-VFX) いいね!ウチで働かない?(意訳)」というスカウトメールが届いていた。GitHub経由の英語スカウトメールはプロフィールすらちゃんと読んでくれてない事も多いのだけど、今回はちゃんとライブラリの中身についての言及もあったし、僕が日本にいることも把握してくれていた。

社名でググってみると、どうやらWeb上で動画編集ができるツールやiPhoneアプリを開発している会社らしい。僕のスキルセットや興味にもかなりマッチしているし、話だけでも聞いてみようということで、Zoomで面談を行うことになった。

聞けば、会社の所在地はインドにあるが、開発はフルリモートで行われているとのこと。現在はWebGLを使った描画エンジンの開発のため、世界中のエンジニアを集めてグラフィックスチームを立ち上げていて、すでにインド/ブラジル/イギリス/中国の人々が参加しているらしい。

これは……メチャクチャ楽しそう! ということで、即仕事を受けることを決めた。

働き方について

とはいえ、僕は他の案件も既にいくつか決まっていたし、まだしばらくフリーランスを続けるつもりでもあったので、フルタイムではなく週3日のペースで働くことにしてもらった。

給与についても多少交渉をおこなった。僕は普段、案件が自分のスキルと興味にどれくらいマッチするかによって見積金額を調整している。今回は英語かつフルリモートということで躊躇われたが、業務内容は自分のスキルセットにかなり一致していることもあり、現在他に受けている案件の平均金額を最低ラインとして「あとどれくらい行けそうですかね?」という金額を探っていった。結果はまあ、今のところは満足な金額を貰えている。

スタートアップってこういう感じなのか〜

いわゆるスタートアップ企業に参加するのは今回が初めてだ。スタートアップといってもすでに社員は200人くらいいるらしいけど、まだまだこう……なんというか……勢いに溢れている!

まずフロントエンドがReScript(旧BuckleScript)で書かれてるってだけでも結構ハードコアだし、フロントエンドのアプリ全体はWebpackのModule Federationを使ったマイクロフロントエンド構成になっている。Module Federationは結構ハマりどころも多いんだけど、動画編集アプリだけあってコンポーネント一つ一つがかなり複雑になっており、段階的にリニューアルしたりするためには必須なんだろうな。

ちなみにモバイルアプリチームは現在Kotlin Mulitplatformで開発されている!実際に使われてるの初めてみた……。

フロントエンドチームは人数も多いし、各々がバリバリ働いていて「これがスタートアップの勢いか……」と感心した。先週のミーティングでは「今日は51個のissueが解決しました!」とか言ってて「は!?!??」って声出ちゃった。

仕事はバリバリな一方、形式的な面はかなりユルい。チーム参加初日に連絡がなくて「あれ?今日からで良いんだよね?」とメールしたら「スマン!今から手続きするね!」とあわてて各種ファイルやリンクが送られてきた、というエピソードもあった。まあある程度ユルい方がこっちも働きやすいので不満は無いです。

インド企業の面白さ

スタートアップらしい面白さとは別に、インド企業の特色というのもある。

会社のオフィス自体はムンバイの都会にあるらしいけど、いまはインドの社員もフルリモートなので、カメラの背景に皆の家が見えたり、子ども達が遊んでいる様子が見えたりすることがある。あるときは定例ミーティング中におばあちゃんがインドの民謡?を歌っているのがずっと聞こえている、ということもあった。

また、インドでは11月頭ごろにディーワーリーというお祭りがあるのだけど、海外を含めた全スタッフにディーワーリーを祝うためのパーティー費用が提供されたりもした。僕はオードブルを頼んで家族でおいしく食べました。

www.youtube.com

(ディーワーリの様子。豊穣の女神ラクシュミーを家に迎え入れるため、インドの人々はディーワーリーが近づくと家を綺麗に片付け、玄関に美しい模様を描いたりランプで飾り付けて、花火で盛大にお祝いする。)

海外企業にリモートで参加する難しさ

一方で、(予想通り)海外の企業で働くことの難しさもガッツリ経験している。日本から海外企業に参加してる人はほとんどが北米かヨーロッパだろうけど、多分そんなに事情は変わらないであろう。

とくに大変なのは、英語、時差、そして書類手続きの3つだ。

英語

いわずもがな、英語力はある程度ないと厳しい。

英語で実務を行うにはCEFR B2以上の英語力が必要と言われている (文部科学省の資料: https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/03/__icsFiles/afieldfile/2019/01/15/1402610_1.pdf)。

僕はCEFR B2にあたるTOEICスコアを持っているけど、正直まだ全然英語力が足りてないな〜とミーティングの度に痛感している。

まず専門用語がバシバシ入ってくるのが難しい。技術用語は普段文字でしか認識してなかったり、動画を見る時はある程度コンテキストが絞られているので聞き取れるんだけど、仕事だと脳のメモリに載ってない言葉が急に出てくるので追いつかない事がある。この前はテキスト描画エンジンの実装についてチームの人と会話していたんだけど、「この部分の設計はラダを参考にしてるよ」「ラダ……?すみませんラダって何ですか?」「ラダはモバイルアプリフレームワークだよ」「ラダ……ラッダ……Flutter!?!?!?!」みたいなことがあった。

リモート特有の問題としては、音質が悪いと聞き取り能力がガクッと落ちてしまう、というのがある。国によってはネットワークの状態が良くなかったり、「今日停電なので携帯から参加します」とかもある。これはもう出来るだけ経験を積んで耳をよくしていくしか無いのかな……。少なくとも、自分はまともなマイクとネットワーク環境で参加しよ、と思うようになった。

あとは、国によって英語の発音が結構違うのもむずかしい。インドの人の英語はだいぶ慣れてきたが、インドの人と話したあとにイギリスの人と話すと未だに耳が慣れるのに時間がかかったりする。僕の英語もメチャクチャ日本訛りなんだろうな。

でも、いま一番困ってるのはスピーキング能力だ。オンライン英会話とかだと気づかなかったけど、僕は発言する前に脳内で文章をあらかじめ組み立てているっぽい事がわかってきた。会話の途中にいきなり質問が飛んできたときにサッと回答したり、他の人の会話に割り込む、みたいな事が難しい。

これも地道に頑張るしか無いな〜〜。

時差

日本とインドとの時差は3.5時間なので大したことはないのだが、僕のチームにはブラジルとイギリスの人がいるので(東京とサンパウロの時差は12時間!)、チーム全員で顔を合わせて会話するのがかなり難しい。今は毎日21:00~22:30に定例ミーティングがある……。僕が「今日は早起きだったからもう眠くなって来ちゃったよ〜」と話している一方、ブラジルの人はまだ起きたばかりでボンヤリしてる、みたいな事もよくある。シカタナイネ

手続き系

当然だが契約書は英語。契約書って日本語でも難しい文体で書かれているけど英語でも同様で、初めてみる単語がバンバン出てくるし、DeepLで翻訳しても意図がわからない文章が多くて大変だった。ある種の専門用語みたいなもので、フレーズごとググってみると契約書専門の翻訳家による解説ページみたいなものが見つかったのでなんとかなったけど、不安な人はそれこそ翻訳業者に頼んでも良いと思う。

また、契約まわりでトラブると最悪の場合は裁判になるが、裁判のために海外に行く事も一応覚悟しておかないといけない。今回は契約を交わしたのがシンガポール支社みたいな所だったので、もし裁判になったらシンガポールの裁判所に行くことになる。

報酬は銀行振込なんだけど、海外送金って手数料がいくつもかかったりして難しいんですね……今回はゆうちょ銀行を使っているけど、送金の度にわざわざ通知はがきが届いたり、初回の振込のときにマイナンバーを提出する必要があって面倒だった。Wiseというサービスを使うと手数料が節約できるらしいので使ってみたいな。

(苦しんでいる様子)

あ、あとつい先日「来年オフサイトやるからインド来ない?」という招待をもらったんだけど、日本は未だにインドからの渡航を制限しているので断った、という話もある。これは仕方ないですね………。

まとめ

楽しいです。物怖じせずにチャレンジして良かった。

あと、もし興味をもったWebGLパーソンがいたら連絡してくれよな。


追記 (2021-11-25 11:16)

書きそびれた小ネタ

  • 画像にエフェクトを適用する関数のリストを実装する時、他のメンバーが「こういう処理なんて呼ぶんだっけ……?」って悩んでたので「カリー化のこと?」って答えたら「それそれ!……日本人にCurryを教わってしまったぜHAHAHA」みたいな会話がなされた事がある
  • 「仕事受けます!」ってメールしたら一時間後にCEOが「新しいメンバーを紹介するぜ!」ってツイートしてた。まだ契約書交わしてないのに……勢いがある

コメントへの返信

せっかく色々コメントもらったので返信します。

id:brusky サーバーをサルバルって言われて「?」ってなるやつ

id:underd Rをルと発音するのが独特。ナンバーワン→ナンバルワンとか

まさにそういう感じですね。やっと慣れてきた。

id:MacRocco この場合って社会保険とか厚生年金とかってどうなるんさろ?

僕は元々フリーランスなので保険は自分で国民健康保険とかに入る必要がありました。 フルタイムでも多分同じだと思いますが、日本法人があるような会社だと会社でやってくれるんですかね?

id:hirolog634 wiseは送金側の手段の話では?貯めておけるなら、円安が進んでるしドル口座でドルで受け取っておくのが良い気もする。

まだ良くわかってないのですが、Wiseではマルチカレンシー口座というサービスがあって、普通のドル口座としてお金を受け取りつつ、必要なときに円に両替できるみたいです。 TwitterでShuhei Kagawaさんに教えてもらいました↓

余裕があれば試してみたい……

id:tarotheripper インドだと100,000のことをhundred thousandではなくてlakhというインド独自の表現を使う人が多くて最初戸惑った。

へえ〜 インド独自の数え方があるんですね、Wikipediaにも記事があった ただでさえ千、万からthousand, millionに変換するのに手間取っているのに😇

インドの命数法 - Wikipedia

id:aike 楽しそう。ツイッターで海外の会社の仕事してるらしいのは見てたけどこういうことだったのか。海外からスカウトされるくらいのスキルすごい。スタートアップだとストックもらえてるのか気になる。

今はパートタイムなのでまあ無理だと思いますけど、フルタイムで働くようになったらもしかしたら貰えるのかな?